浮雲

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インディペンデンス・デイ 原田マハ

インディペンデンス・デイ

なんとも勇ましいタイトルですね。高らかに鳴るファンファーレ。打ち上がる花火。舞い散る紙吹雪。

いえいえ、そんな騒々しいお話ではないのです。

その物語から次の物語へと、緩やかに重ね合わさりながらバトンしていく主人公達。24編の連続短編集。全ての主人公に共通している事は、女性である事、そして何かがうまく行っていないこと。

 

「T川を越えて、こっちと向こうじゃ賃料の設定が倍、違うんですよ。たった一駅で、お値段がぜーんぜん違うんですよ。」私は絶句した。

きっと境界線というのは人間にとって普通に存在するものなんだろう。  私にとって、それははっきりと目に見えるものだった。大きな川、というかたちで。(川向こうの駅までより)

 

ミサイルでも打ち込まなければ対岸にとどきそうにない大河(?)のほとりで主人公は愕然とします。すぐそこに見える真の都会。川のこちら側から「ステキな人々が住む街」への仲間入りを切望する菜摘。ここで引き下がるわけにはいかない!その執念が奇跡を呼び込みます。

「28歳にして生まれて初めてのひとり暮らしのアパートは、N駅から徒歩(ただしかなり早足で)二十分、築二十五年、かろうじて風呂トイレ付きのキワモノ物件だった。」

 

昔、私の妹がこんな事を言っていました。「20歳までに家を出ないヤツは馬鹿だけど、ハタチを過ぎてから家を出る奴は大馬鹿だ。」(勿論、冗談半分でしょうが)

 

とにも、彼女はついに川を越えた。

「ついに私は、独立したのだ。父から、あの町から。 目には見えない境界線の呪縛から。」

 

ここから物語は始まります。

23人の主人公(23人の主人公です)、上手くいかないそれぞれの何か。それに懸命に向き合う主人公達。答えでは無く、真に向かい合うべき何かを見つけ、物語は受け継がれていきます。

 

インディペンデンス・デイ

それが24話を貫通するキーワードです。23人の彼女達が何を見つけたのか。それは皆さん自身で確かめてみて下さい。

 

「あっち側からこっち側を眺めていたときは、ただの川原なのに妙にまぶしく見えたものだ。どんなにがんばっても向こう岸には行けないんだよなあ、と悲嘆したりもした。けれど、こっち側からあっち側を眺めると、その空は懐しい色に染まって見えた。おんなじ空なのに、なぜだろう、あっちの空のほうがおだやかで、優しい色に包まれているような気がした。」(菜摘の言葉 川面を渡る風より)